妊婦健診
Medical information2025年4月25日付の産婦人科学会からの、妊婦への百日咳ワクチン接種の積極勧奨通知を受け、5月から百日咳ワクチンの妊婦さんへの接種を開始しております。
お問い合わせを多く頂戴しており、在庫調整中のため5月上旬時点では、当院で妊婦健診をされている方を優先して接種させていただきます。
製薬会社から十分な配給が整い次第、当院で健診されていらっしゃらない方も受付させていただきますので、もうしばらくお待ちください。
全国的に、妊婦さん以外の小児・成人も接種希望者が多く、ワクチン自体が供給不足とのことです。
RSウイルスワクチンにつきましては、十分在庫がございますので、他院で健診中の方も接種お待ちしております。
また、下記の日本周産期・新生児学会からの2025年5月9日付の通達の通り、Tdap と組換え RS ウイルスワクチンとの同時接種は、百日咳菌の防御抗原に対する免疫応答が低下するとの報告があるため接種の際に注意が必要とされるため、当院では、百日咳とRSワクチンを同時に接種はせず、2回の健診に分けて接種しております。
具体的には以下の2プランで接種しております。
プラン①:妊娠28週の健診で百日咳ワクチンを接種、その次の30週でRSウイルスワクチンを接種
プラン②:妊娠30週の健診で百日咳ワクチンを接種、その次の32週でRSウイルスワクチンを接種
ここで注意していただきたいことは、百日咳ワクチンは妊婦さんに接種が勧められていますが、風疹ワクチンは妊婦さんには絶対に接種してはいけないということです。
今回の百日咳ワクチンの名前はトリビックですが、妊婦さんに絶対接種してはいけない風疹ワクチンの名前がミールビックで、名前が似ています。
そのため、トリビックを接種するつもりが名前を間違えてミールビックを接種してしまうヒューマンエラーがゼロではないです。
しかもトリビックとミールビックは、製造と販売もビケンと田辺三菱製薬で一緒で、下記写真のようにワクチンのパッケージも酷似しています。

産婦人科で接種される場合には接種の間違いはまずないですが、日常診療で妊婦さんにワクチンを接種する機会がそこまで多くない内科さんや小児科さんでは不慣れかもしれません。
そこで、ワクチン接種目的に初めての内科や小児科を受診される際には、必ず母子手帳を持参の上、妊婦さん自身も自分と赤ちゃんを守るために、「今回トリビックを接種します」と接種される先生や看護師さんに口頭で伝えてください。
トリビックは百日咳を含めた3種混合ワクチン → 3だからトリオ → トリオだからトリビック! と覚えていただくと忘れないかもです。
当院では接種間違いが起きないように、トリビックとミールビックは別の診察室の別の冷蔵庫に保管の上、妊婦さんに接種してはいけないミールビックは、院長しか開けられない鍵付きボックスに保管しています。
百日咳は、強く乾いた咳がコンコンと短く続くのが特徴で、お兄ちゃんお姉ちゃんから感染することが多く、赤ちゃんが発症すると呼吸停止や意識消失のリスクもあります。先日も生後1-2ヶ月の赤ちゃんがお亡くなりになるという痛ましいニュースがありました。
お母さんからもらった自然免疫では百日咳菌の感染は防げず、2024年秋以降感染者は増加しています。
生後2ヶ月からは、5種混合ワクチン(百日咳、破傷風、ジフテリア、ポリオ、ヒブ)の定期予防接種の案内が届き接種できますが、逆に言うと現在の日本の制度では、生後2ヶ月未満の新生児や乳児には感染・発症を予防する手段がないのです。
海外では、妊娠中に接種する方法が一般的で、母子移行免疫で赤ちゃんの感染の6-7割が防げると言われています。
百日咳は生まれてまもない赤ちゃんが感染すると一番危険な病気のひとつです。
以下は、日本産婦人科学会からの2025年4月25日付の発表資料の抜粋です。
乳児の百日咳予防を目的とした百日咳ワクチンの母子免疫と医療従事者への接種について
2018 年以降、百日咳は感染症法上の 5 類感染症として全数把握が義務付けられ、患者報告数は 2024 年以降再
び増加傾向を示しています。特に乳児における重症例が増加し、さらにマクロライド耐性百日咳菌の頻度も増
加しています。
・母子免疫の早期導入について
日本では、百日咳に対して乳児への百日咳含有ワクチン(3 種混合ワクチン DPT や 4 種混合ワクチン DPT-IPV)
の定期接種が生後2か月以降に実施されています。
しかし、百日咳含有ワクチン接種前の乳児への感染例が多く、またその重症化が問題となっています。
オーストラリアや欧米諸国では、妊娠後期の妊婦に百日咳含有ワクチン(Tdap)を接種することで母体から乳児への移行抗体を増加させ、乳児の重症化を防ぐいわゆる「母子免疫ワクチン」が推奨されています。
現在、日本では Tdap は認可・販売されていないため、個人輸入する方法はありますが、副反応発生時の対応など課題が多く日本での母子免疫ワクチンは進んでいません。
・百日咳含有ワクチン(DTaP)による代替接種の可能性について
定期接種として導入されてきた百日咳含有ワクチンのうち、3 種混合ワクチン DTaP(トリビックR)は添付文
書上、妊婦への皮下接種が可能です。また、最近の厚生労働省研究班により、妊婦への DTaP 皮下接種の安全
性と乳児への百日咳に対する抗体移行が確認されています。
Tdap が使用できない日本国内においては、母子免疫ワクチンを目的とした妊婦への百日咳ワクチン接種の実現可能な代替案として DTaP の活用が考慮されます。ただし現時点では、妊婦への DTaP 皮下接種による乳児百日咳の重症化予防効果は証明されていないことをご留意ください。
日本国内においても百日咳に対する母子免疫ワクチンが進むことを期待しております。
あわせて、以下は、日本周産期・新生児学会からの2025年5月29日付の発表資料の抜粋です。
百日咳の流行とマクロライド耐性株への注意喚起. 2025 年 5 月 9 日
1.疫学的背景
百日咳(Bordetella pertussis )の報告数は、COVID-19 パンデミックを機に減少していたが、近年国内において増加傾向を示しており、2025 年は第 12 週(3 月 17 日〜3 月 23 日)時点で累積患者報告数が 4,000 例を超えており、2024 年の年間届け出数を超えている。
特に乳児例では重症化リスクが高く、2025 年に入り重症例の報告が相次いでおり、注意が必要である。
2.薬剤耐性の現状と治療
百日咳の治療の第一選択薬であるクラリスロマイシンやアジスロマイシンに対して耐性の百日咳菌(macrolide-resistant Bordetella pertussis :MRBP)が中国を含む諸外国では拡大傾向であり問題となっている。日本では 2018 年を最後に耐性菌の報告はなかったが、昨年末より、複数の地域から MRBP が分離されていることが報告され、市中に蔓延している可能性が示唆されている。MRBP に対しては、スルファメトキサゾール・トリメトプリム(ST 合剤)が中国を含む耐性菌蔓延地域では第一選択とされている。日本でも耐性菌の分離報告が増加してきており、マクロライドに加え ST 合剤の併用を考慮する必要がある。
ただし、 ST 合剤は、低出⽣体重児、新⽣児、妊婦には原則禁忌であることに注意が必要である。
3.予防接種
百日咳は耐性菌を含めて、ワクチンで予防できる感染症である。
現在、日本において乳幼児期の百日咳を含む混合ワクチンは定期接種(⽣後 2 か月以降) として実施されており、対象月齢となれば速やかな接種が望まれる。一方で、 思春期以降の追加接種(ブースター)や成人・妊婦・医療従事者への接種は普及していない。日本小児科学会は、任意接種となるが、5〜6 歳と 11〜12 歳の小児への 3 種混合ワクチン(DTaP:トリビック®)の接種を推奨している。
⚫ 妊婦
欧米諸国では、母親からの移行抗体で乳児の重症化を防ぐため、妊娠後期の母親が百日咳含有ワクチン(Tdap:成人用 3 種混合ワクチン)を接種することを推奨している。
日本では Tdap は未承認であり、 輸入ワクチンの取り扱いのある医療機関で接種することになる。
代替として妊婦に対する DTaP の使用については、投与実績が乏しいので安全性や児への効果が確立されてい
ない。しかし、近年の国内からの報告では妊婦への安全性と児への移行抗体が確認されている。
産婦人科診療ガイドライン-産科編 2023 (日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会)では有益性投与の記載がある。耐性菌を含む百日咳が流行する現状では、妊婦への DTaP の接種が考慮される。
*Tdap と組換え RS ウイルスワクチンの同時接種は、百日咳菌の防御抗原に対する免疫応答が低下するとの報告があるため接種の際に注意が必要である。
この記事を書いたクリニック情報
クリニック名:とまり木ウィメンズクリニック 武蔵小杉
院長:鈴木 毅 (すずき たけし)
診療科目婦人科・子宮がん検診・妊婦健診・ 漢方内科・ピル